Work Text:
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辛い、渋い、甘い、苦い、酸っぱい。
赤色、青色、桃色、緑色、黄色。
かっこいい、うつくしい、かわいい、かしこい、たくましい。
「ゴージャス」とは一体どういう意味ですか?どんな人生を過ごしたら、充実とは言えるでしょうか?今までの人生では五つの味を口にし、五つの色を目にしましたが、それで「ゴージャス」な人生と言えますか、他人を照らす光を発しましたか?
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ロスモンティスと共有したメモリーは、緑色で苦かった。
いつの間にか、ロスモンティスちゃんとは親しくなりました。彼女のエリートオペレーターという身分には全く実感していなく、いっしょに任務に出る機会もめったにないけれど…エリートオペレーターの皆さんは私みたいのと違って、ロドスにいる時間も長いですし、古株たちとの関係も近いですし、これからもロドスと共に、長く、長く進めていくでしょう。
ロスモンティスと共有したメモリーに一番印象深かったのは、やはり雲の上でした。テラのところどころの雲の上で、キャプリニー一人とフェリーン一人が飛んでいるほど、荒唐無稽な場面がしばしば起きます。とはいえ、ロスモンティスの小柄な体をぎっしり抱きしめて、がんばってバランスを取りながら、高速移動中の強風に飛ばされないよう体制を取るのは一番の方法です。急いでロドスをこっそり抜け出して、行きたいところに行くための方法。だって、飛行機の申請はいつも時間がかかるし、しかも毎回だってフィールドワークという便利な理由を使えるわけではありません。そういうとき、ロスモンティスはいつも私のわがままを聞いてくれる。次に向かうのは噴火しそうな火山であっても、街の夜の商店街であっても。
ヴィクトリアからレム・ビリトンまで、ボリバルから炎国まで、どこだって空の寒さは変わらない。ロスモンティスは私のだっこは拒むことが一度もなかった。戦術装備(アーツユニット)を操作しているあの子がきちんとバランスをとっているから、抱きしめたら確かに、私が空から落ちる危険が解消されるのも理由。だけど、それ以外にも、かぜさゆると共にあった骨までしみ込む痛めを、私の体温が緩和してあげたような理由もあるでしょう。
メモリーピースを拾っていて手中に集めながら、白衣を身に纏う私は孤立されようだが、孤独ではなかった。もし私がロスモンティスだったら、「エイヤフィヤトラ」もしくは「アデル・ナウマン」という名前を、思念連鎖の一環として作り出したいかな。
手中にあったしおりを触りながら、最後のロスモンティスの戦術装備に乗ってどこかへ行った出かけを思い出す。あの時からどれくらい経っていたのかはわからなくなったが、あの骨までしみ込んだ寒風で私の髪が乱れたことを、そしてあの時ロスモンティスが見慣れた表情で、しっぽを立って横顔でこっそり見てくれる様子を覚えている。
ロスモンティスが誕生日プレゼントとして贈ってくれたこのしおりもはっきり覚えている。しおりは緑色で、書いた文字は「ナルシッサ」、描いた模様は猫の落書き、そして不意に舐めてしまった時の顔を歪めるほどの苦さ、一つ一つもすべて覚えている。誤飲防止のための塗布成分があるなどと聞いたが、私がその時、苦いと一緒に思い出したのは彼女の過去だけだった。その小さなフェリーンにとって、重すぎる過去の負担はいつか、肩から下ろせるかな?あるいはすでに下ろしてあって、心配無用だったのかな?私は直接聞いていなかった、それは私が聞くべきことではなかった。だけど、ロスモンティスなら、心配しなくていいでしょう。私のような勝手に関係が近いと思い込む人だけでなく、本当にロスモンティスと近くて、「家族」と呼ぶ人たちからでも、ロスモンティスのことなら、心配しなくていいでしょう。
緑色の、苦い、かしこいロスモンティスは、エリートオペレーターの責任を背負って成長し続けて、そして私の代わりに顔を上げて、太陽を見続けるでしょう。そう、あの私の世界から隔離されて、もう私が二度と触れることができない太陽のこと。
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エーベンホルツと共有したメモリーは、青色で渋かった。
リターニア人の私はよく音楽が上手だと誤解されがちだが、同じくリターニア人のアーススピリット先輩とエーベンホルツさんなら、私はあまり上手ではなかったことをよく理解しているようです。
ある平凡な午後、リターニアのどこかの庭にあった木の陰で、エーベンホルツさんが贈ってくれたハーモニカ、不器用でありながらも、私の呼吸をハーモニカに吹き込んで、平穏な旋律へと変換してくれるのを期待する。エーベンホルツさんはその時、側にいてくれて、根気よくハーモニカを吹くテクニックを教えてくれる。記憶にあるあの時、エーベンホルツさんらしくない優しい話し方だったので、普段のとげとげしいエーベンホルツさんとよく接していたオペレーターたちから見れば、目を瞠るほど驚くでしょうが、私は…すでにあの優しさに慣れていたようでした。
同じくリターニア人なのかな?同じくキャプリニーなのかな?でも、それだけだから、ではなさそうだった。無謀に火山のあとを追いかけた私の姿から、どんなきらめきを目にしていたら、私の誘いを受け入れて、友達になってくれたんでしょうか。
メモリーから抜け出した私は掴んでいるハーモニカを撫でている。あれからずっと、このハーモニカを荷物に入れて連れている。今は患者衣を着ていてベッドに座り込み、ハーモニカを演奏する機会もなかなかなかったが、荷物を整理してくれたバティさんにお願いして、ハーモニカを病室に持ってきた。まだ触覚があるから、指先でゆっくり触れて、ハーモニカに刻んた模様を感じて、Ebenholzの文字を読み取れました。
エーベンホルツさんの過去を深堀りするなどしたことはなかった。ちょっとだけ話しようと思って触れるたび、エーベンホルツさんの渋い表情を見えてしまう。青色系の服を着たエーベンホルツさんは見たことないが、あの渋い表情の下に隠された渋い過去があることを知ったら、なぜか私の目に映された彼の姿も、青色のフィルターがかけたような感じがしました。
……やはりハーモニカと音楽の話題に戻ろう。バイオリンさえ聞かなければ、リラックスな雰囲気が出るようでした。
青色の、渋い、うつくしいエーベンホルツさんは、優雅な音楽を演奏して聴衆を、そして聴衆と言えるかどうかもわからない私も含めて、虜にしてしまう。昔から約束したことがあって、もし私の耳が澄ませる日が再び来るのなら、私のためにコンサートを開こうと。もう実現する可能性がゼロになった約束には、後悔するのみ。ああ、あの時直接演奏を聞けたらいいのに。
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ヘイズと共有したメモリーは、桃色で甘かった。
ヘイズさんのいるメモリーは、いつもスージーちゃんと関わるシーンだった。ロドスに来た頃のヘイズさんはスージーちゃんと異なり、アーツ指導を受ける必要がなく、かつ外勤任務もバカンスも彼女の姿が見かけられない。かといって、研究室に引きこもりすぎて、ススーロ先生に引っ張られて強引にドッソレスに連れて行かれた私が口出すべきではないですけどね、へへ。
ニューシエスタの時はスージーちゃんの姿を目にしたが、ヘイズさんはやはり来ていなかった。もちろん、来ていない彼女を含めた友だちにプレゼントを用意することは、ちゃんと覚えていますよ。
ヘイズさんへのプレゼント、何にしたらいいでしょう。そういうことに悩んで悩んでかなり時間がかかってしまって、結局スージーちゃんに決めてもらいました。ヘイズさんは絶対喜ぶプレゼントです!って、スージーちゃんは目がキラキラして選んだものだが、そのプレゼントをヘイズさんに渡したとき、顔に現れたちょっと複雑な表情とぎこちないしっぽのフリフリを見かけた時、ヘイズさんもそんなかわいい姿があるよね…と、ひょいと思ってしまいました。
スージーちゃんだけでなく、普段もすばしこく、強情なヘイズさんにもずっと期待していた。ただすべても見通した顔で遠いところからひっそり見ているだけではなく、一緒に水遊びに参加してくれることを期待していた。けど、その期待は最後までも応じられなかった、ヘイズさんは最後までも、その時プレゼントした水着を着ている姿を披露してくれなかった。もしかしたら、スージーちゃんだけが、その姿を目にする機会がありますか?
ネックレスのようなアクセサリーを手で軽く撫でてみた。いつになったかははっきりしなかったが、確かヘイズさんがプレゼントしてくれた、壊れた源石(オリジニウム)回路の部品だった。エンジニア部のユーネクテスさんに改造をお願いして、何の危険もなく、何の役にも立たないただのアクセサリーへと変わって、そのままネックレスにしてしまいました。本来は角にぶら下がるようなアクセサリーにしたかったが、角のアクセサリーより、ネックレスの形の方が、手で触れやすいかと思います。ああ、ネックレスを触るたびに、これを贈ってくれたヘイズさんに呼びかけているような気持ちがして、見せてくれなかった水着の姿を想像してしまいました。
桃色の、甘い、かわいいヘイズさんは、この目がもう見届けることができなくなったとしても、あの姿を見せてくれなかった。プレゼントした水着は合っていますか、そういう質問の答えはもう知る術がなかったが、どちらにしても、ヘイズさんの可愛さは知っちゃいましたから、大丈夫です。
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先輩と共有したメモリーは、赤色で辛かった。
先輩はいつも全能で勇敢な方。どんなことでも挑戦の勇気があり、そしてちゃんと最後までやり遂げる。私がなにか困難にぶつかったときも、いつも助けてくれましたが、先輩が困難にぶつかったとき、私はいつも何の役にも立たなかった。
いや、「いつも」ではなかった。ほんのわずかの機会に、先輩の役に立つことがありました。例えば、私にでもできる程度の、ちょっとした「演算」を、忙しくて「演算」を行う時間がない先輩の代わりに進めていきます。
振り返ってみたら、先輩の冗談半分で「私の戦闘メイド、エイヤフィヤトラちゃん!」と呼ばれたらだけなのに、なぜ端末を返しに行く時、その冗談のような呼び方に合わせた服を着替えたでしょう。でも、端末を先輩の手のひらに置いて、ソファーに座っている先輩に頭を、ヘアバンドを撫でられていた時、心の中の喜びは溶岩のように沸き上がって、尊敬している人に認められたような感情を叫んでいた。
先輩の赤き髪を見るたび、炎国の一部の料理をはじめ、辛い食べ物を思い出します。先輩の作った料理はニェンさんにも頷けるほど辛いものですが、「先輩、私も食べたい…」とこっそり言い出すと、私のわがままのために、私にも食べられるほど辛さを減らした料理を作ってくれます。辛さに苦手な私は食べたい気持ちと辛さから逃げたい気持ちが矛盾していて、近づけたくて離れたいと、私自身もよくわからないような考えがしてしまいます。先輩がバトルコントロールシステムを操作している姿をひっそり見る時、あのかっこいい姿をずっと尊敬していて、憧れている。いつもシステム上に正しい戦闘指令を出してくれる先輩のように、私にもいつか、ただ指一本で私の世界を回せるようになるのかな?
荒唐無稽な考えに影響されたように指を差したら、金属の缶に触れてしまった。ああ、それは結構前先輩からいただいたハーブティー入れの缶ですね。飲んだら気持ちを穏やかにするハーブティーらしくて、先輩が私のためにラナさんに頼んだもの。乾燥したお花だから長持ちらしくて、今になってもまだ飲めるはずです。ただ今の私にとって、お茶淹れは難しいことですから、やはり今度先輩が見舞いに来る時にお願いしようかな。
赤色の、辛い、かっこいい先輩。「ステラ」は彼女の名前、その名前をもう一度、いや、何度でもまた呼ばせていただきたい。ステラ、先輩、またいつか、ニューシエスタにバカンスしていきませんか?あの時先輩が忙しくて、行けなかったから、また先輩と、そしてみんなと行きたいです。けれど、彼女の名前を呼ぶことにも、その願いを口にすることにも勇気がなかった。前回先輩が見舞いに来たときからすでにわかってしまいましたから、私自身が聞こえないが、私はもうちゃんとした言葉、声を出せなくなりましたから。
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スワイヤーと共有したメモリーは、黄色で酸っぱかった。
ニューシエスタに来るまで関わりがないはずなのに、なんで彼女に知られて、気づかれたでしょう。なんで行程中の隙間時間すらも把握されて、用事を済ませたからホテルに戻って地質学の本を読もうとした私を部屋の前で捕まったでしょう。
スワイヤーさんの言葉の巧みを翻弄されて、いつか普段着から水着に着替えさせられて、本のことをあとにした。手を繋いでホテルの外に連れて行かれた時、「本を読みたかったのに…」と小声で言っていたが、水遊びに行こうとする小さな喜びも上手く隠せなかった。
アデル、もう十分がんばったから、もう疲れたから、休みを取りましょうね。
スワイヤーさんの言葉も姿も、なぜかドリーさんと重なったように見える。偶然言葉が同じだけだったのか、それともドリーさんが裏でなにかを操ったのかは私にはわからない。ただし認めたくはないが、スワイヤーさんの言う通りに、疲れてしまいましたから、リラックスタイムが必要になりましたから。ドッソレスでの旅はすでに、その必要性も証明しましたから。だから私は、背中を押してくれたスワイヤーさんには抵抗しなかった。そのまま、一緒に太陽光をたっぷり浴びれるビーチに行きました。
あの頃贈ってくれた火山模型はきっと、そこの机の上に置いてあるでしょう、今のベッドに横たわった私には距離があって、触れられないけど、そこにあるのはわかっています。スワイヤーさんのようなお金持ちの方の考え方には、ときについていけなくなります。例えばあの頃、誕生日プレゼントは温泉でどう?と聞かれたとき、すぐに断ることすらできなかった。なぜなら、「プレゼントは温泉に行こう!」ではなく「プレゼントは温泉」の意味は、時間をかけてからようやく理解できましたから。
もちろんその後は必死に断って、プレゼントを火山模型に変えてもらいました。私は、ちょっと切ない気持ちになりました。私は、貴重なプレゼントなんかいらないです。受け取ったら気が引ける、という理由だけではないです。本当に受け取ったとしても、幾ばくもない余命の中には、役に立たないかもしれませんから。
黄色い、酸っぱい、たくましいスワイヤーさん。何があっても倒れなさそうな雰囲気で、側にいるときはいつも安心できる感じがします。今の私はこんな無様な姿となったけれども、まだ精神が崩壊していないのは、きっと私を支えてくれる力の中に、彼女からいただいた勇気がありますから。
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今日の日付は何月何日、現在の時刻は何時何分?病床に伏したままの私は、時間に対する感覚すら鈍化してしまった。昔の火山考察の頃、時間の歩みに追いつくに伴った充実感は、もう味わえることがなくなった。
時間の勝ちです。というより、まず時間は負けることがありません。時間の歩みに追いつきはじめた時、最初から知っていました、こんな無様な結末をいつか迎えることを。
だけど、私は絶対に負けを認めたくありません。靴が穴を開けてしまったら、靴ごと捨てて進みます。足が折れてしまったら、腕で体を引っ張って、はって進みます。私が知識を探求していく道を進む歩みを止めてくれるのは、「永遠の安らぎ」のみ。だけどそのような結末が本当に来たとしても、私が学習、整理した知識は必ず、あとから来る人が見える灯台となります。
人間はちっぽけな生き物です。盲目で愚かそのものの私の、一人の力では何もできません。しかもすでに私に訪れていた、日が沈んでいく時が。私はただ信じている、私が好きなだけ叫んでしまったら、誰かが聞いちゃくれることを信じています。そしてそれはお別れの挨拶ではなく、私を生贄となって交換した、未来への繋ぎだとわかってくれることを信じています。
私の目には何も見えなくなりました、私の耳には何も聞こえなくなりました、私の口からも、人語らしい声すら発せなくなりました。だけど私は言い切れます、私は「ゴージャス」な人生を過ごしたことを。
かつて習った言語も読唇術も無用な術となった、指で触れた紙にある凹凸だけが、今日が特別な日だと教えてくれた。ふふ、私は見えない、聞こえないだけであって、何もわからなくなったではありません。点字プリンターは昔使用していた補聴器のように、今の私の目と耳の役割を担ってくれました。指先の触感で点字プリンターが印刷してくれた新聞、学術論文やロドスの艦内報告を読んでいますから、まだまだ時間の歩みを、この大地の動きを追いつけられますよ。
病室の扉は開けられたようだ。私は扉の音を聞こえるわけがないけど、扉の開け閉じに伴う風、つまり空気の流れをしっかり感じ取れます。誰かが私の病室に入ってきました。私は人の影を見えるわけがないけど、環境の温度の小さな変化とその原因となった人間の温度をしっかり感じ取れます。
いつものように、右腕を差し出し、医者さんがシリンジで薬液を打ってくれるのを待っている。けれど、針のような触感ではなく、指先の触感を感じ取った。医者さんではなく、見舞いに来た方なのか?
その指先の軌跡は文字となった。いや、「その」指先ではない。一つの触感ではない。柔らかい指先の触感があるとすれば、硬めの指先の触感もあるから、一人だけではないようです。数多くの人が私の側に来て、数多くの指で、一言を残してくれた。昔の頃、その人たちにはわからないはずの言語での一言を。
Til hamingju með afmælið, Eyjafjalla. (誕生日おめでとう、エイヤフィヤトラ。)
私の顔には、温かい液滴が流れた触感がする。もしかすると、涙というものですか?もうその潤い感じの意味すら忘れるほど長く、涙を流したことがなかった。外部の音だけでなく、私自身の声も聞こえなくなったからも、それほど時間が経ちました。話すとき正しい発音しているかもわからなくなって、やがて正しい話す方法すらも忘れてしまった。もう、涙が私の代わりに言いたいことを伝えるしかありません。誰かさんの指で涙を拭い取ってくれましたから、きっと伝えました、でしょう?
þakka ykkur öllum. (みんな、ありがとう)
Ég mun aldrei alveg breytast í hvít aska. (ただの純燼にはなりませんから)
