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Archive Warning:
Category:
Fandom:
Relationship:
Characters:
Language:
日本語
Stats:
Published:
2024-06-24
Updated:
2024-06-24
Words:
7,295
Chapters:
4/?
Kudos:
6
Hits:
262

Get a Fever

Chapter Text


 そんなこんなで、週に一、二回。一時間ほどのトリップをする日常が始まった。三回目には予め、目覚めるあの場所から自宅までの経路を覚え込み、帰宅することを試みたが、一時間ほどで目覚めてしまうのだから失敗に終わった。そうすると医者や犬に会えないことが惜しくなってしまい、それからは目覚めれば迷わずバスで病院に向かい、犬と戯れ、医者にまとわりついている。

 しかし、今日はいつもと少し事情が違う。なんと、Seaの本体は、あの決まって目覚める草原にいるのである。
 夢が夢ではないことを知ってから、Seaはこの場所に実際に来たいと思っていた。しかし、片道四時間ほどの距離に思い立って行けるほど、Seaは暇でもなければ、裕福なわけでもなかった。アルバイトを調整して授業のない日に二連休を作り、少々節約して宿代と交通費を捻出する。そうやって小旅行の準備をしているとすぐに二か月が経っていた。
 鉄道やバスを乗り継いで、あの見慣れた草原に着いたはずだが、Seaは気づけばいつもと同じように人には見えない状態となって目覚めていた。そして、なぜかあの医者をここに呼ばなくてはいけないような気がして、急いでSeaはバスに飛び乗り、病院のあの医者の診療室へ向かった。
 先ほどのSeaとは正反対の患者は予想通りに感染症だったらしく、医者は診断をすぐに終わらせた。患者がいなくなったのを見て、Seaはどうにか医者をあの草原に連れ出そうと苦心する。
 この二月で分かったのだが、Seaはどうやらこの体だとイメージしたものを生み出せるらしい。他の人には見えないが、あの犬にもアボカドのおもちゃを与えたところ嬉しそうに鼻でつつき、噛みついて遊んでいたため、確かに出せるのだ。
 どうにかこの力が医者にも通じてくれないかと心臓の模型やアイロン、思いつくものを取り敢えず出したが、全く反応はない。
 仕方ないからと、医者が書き込んでいるカルテ引っ張ってみると、怪訝な顔をしていた。数百グラム程度のカルテを動かすことは今のSeaには重労働だった。しかし、反応が返ってきたことがこんなにも嬉しい。Seaは満面の笑みを浮かべた。
 しかし、反応は返ってきても、あの草原に連れ出せたわけではない。どうすれば良いのか悩むSeaはふと、医者が救急車で出動する時、持っているスマートフォンに来る通知を見ていることを思い出した。Seaはデスクの上に置いてあるスマホを見つめ、必死に自分の居場所が伝わるように念じた。

 ピコン。
 思いが通じ、医者のスマートフォンは反応した。ただ「Sea」という名前と居場所だけ書かれた出動要請に医者は首を傾げるが、急いで部屋を出た。
Seaはスマートフォンを操作した瞬間から、頭の左側が痛み出した。しかし、その痛みも気にならないくらいに医者に思いが通じたことが嬉しかった。急いで医者を追いかけ、一緒に救急車へと乗った。
 病院からあの草原までは、約十五分。頭が痛んでも、最初の五分ほどは元気なSeaだったが、救急車が目的地に近づくにつれ、段々と体が辛くなっていった。
 頭痛は増し、呼吸が浅くなる。Seaは耐えきれずストレッチャーに横になり、医者の真剣な顔を下から眺めた。眉根にしわが寄り、厳しい顔つきの医者を見て、そんな顔もかっこいいな。それだけ思って意識が途切れた。

 遠くでガヤガヤと聞こえていた声が段々近くなり、遂に
「心拍戻りました!」
 という声が耳元でして、Seaは目覚めた。
 なぜだか瞼がとても重く、それでも懸命に開けると、見慣れた顔がこちらを覗き込んでいた。うっすらとぼやける視界の中で、医者の口角がゆっくりと上がる。
 やっと自分に向いたその微笑みが、とんでもなく嬉しかった。思わず笑い返した表情が奇妙じゃないことをSeaは願った。